離婚調停で、双方が離婚後の親権をめぐって対立することが多くあります。
現状では、子どもの親権者を父母のどちらか一方に定めなければ離婚することはできないので、双方の主張はするどく対立することになります。
双方の対立から、親権と監護権を分けてほしいという主張もまれに出てきます。
未成年の子どもを持つ親が離婚をする場合、必ず直面する親権について、
『親権』の内容とはなにか」
「『監護権』と親権との違いはなにか」
「どんなときに、『親権』と『監護権』を分けるべきか」
については、子どもの福祉の観点から考えるべきしょう。
身上監護権
監護・教育の権利義務
監護とは、子の身体上の監督及び子の保護をすることです。
この他にも、パスポートの申請、戸籍などの手続や医療に関する同意などがこれに当たります。
一方、教育は、精神発達を図ることです。
また、教育の自由は憲法上で定められた権利です。
その内容・方法・程度等については親権者が自由に決めることが出来ます。
その一方で、保護者は子が教育を受ける権利を奪ってはならないことは当然です。
親権者は9年間の義務教育を子に受けさせる義務を負うことが学校教育法に定められています。
ですが、監護と教育は分けることはできません。
監護と教育を総合して、はじめて子どもを心身共に健全な社会人に養育することができるとされています。
大切なことは、監護・教育はあくまで子の利益のために行わなければならないということです。
ですから、親権者が子の監護・教育をすることを怠ったり、親権者が権限を不当に行使して子の利益を害すれば、親権の濫用として停止や喪失の原因となります。
居所指定権
子は、親権者が指定した場所に居所を定めなければなりません。
居所指定は親の権利ですが、子の福祉に反すると権利濫用になります。
懲戒権
親権者は、子の監護及び教育に必要な範囲内で、子を懲戒することができます。
懲戒とは、子の非行や過誤についての教育のために、親権者が子の身体または精神に苦痛を与える懲罰手段です。
増加の一途をたどっている児童虐待ですが、削除すべきという声も上がっていますが、現状では削除されていません。
ただ、親権者が子の監護及び教育に必要な範囲を超えて制裁を加えた場合、親権喪失や停止の原因になることもあり、犯罪と認定され刑罰が与えられることもあります。
職業の許可権
親権者の許可を得なければ子は職業を営むことができません。
親権者が、子の財産を管理し、その財産に関する法律行為についてその子を代理することができます。
子のためにする財産管理は、親権者は自己のためにするのと同一の注意義務をもって行わなければならないとされています。
身分法上の行為の同意権・代理権・取り消し権等
身分行為は本人の意思によるべきで、代理が制限されています。
しかし、幼い子は身分行為についての判断能力を持っていません。
そのため、➀嫡出否認の訴えの被告になる②認知の訴えの提起③15歳未満の子供がする子の氏の変更の許可の申立④15歳未満の子がする縁組の代諾⑤未成年が養親の場合の縁組の取消し等々、子については多くの法律行為について制限を設けています。
身分行為は法定代理人である親権者の代理を認めています。
責任無能力者の監督義務者の責任
未成年者は、他人に損害を与えたとしても、自己の行為の責任能力を備えていない場合、賠償責任を負いません。
責任能力を備えているか否かは、加害者行為ごとに個別に決められますが、
責任能力のない子どもに代わって賠償責任を負うのが親権者です。
それは、親権者が子どもを監督する法定義務を負っているからです。
なお、監督義務を怠っていなかった場合と監督義務を怠らなくても損害が生ずるであろうときは責任を負いません。
子の監護は親権の一部分であり、親権者は子を監護することが原則です。
しかし、例外的に親権者と監護者が異なることを認めています。
子の監護者は「監護に必要な事項について」父母の協議で定めることができます。
どんな場合には、例外的に親権者と監護者を分けると考えられるのか、以下の例について上げてみます。
親権と監護権を分ける例
1.親権者が常に監護者として適正であるとは限らない
2.子の身上監護者としては適任であるが、財産管理その他親権の全体を行うには不 適任なので財産管理その他親権全般を行う者として親権者を定める
3.父母双方に子に対する愛情を満足させるために分属させる必要がある
4.父母いずれかに子を監護することが出来ないなどの事情がある場合に第三者を監護者と定める必要がある
5.離婚後も父母の共同監護を実現するために監護者制度を活用できる
6.現実に子を監護するものを直ちに親権者に指定することに不安があり監護の実績を見る必要がある
6.子の親権者に指定した者のもとで直ちに生活できない事情がある場合に他方の親を監護者と指定する必要がある
7.父母の離婚前の別居状態に対処するために監護者指定が必要になる
親権と監護権の境界線
では、親権と監護権を分けたときの権限の境界線はどこになるのでしょうか。
以下にその例を上げます。
監護者の権限
監護者は、親権の主たる内容である監護及び教育、子の居所指定権、懲戒権、職業許可権を中心とする身上監護権を持ちます。
子の引き渡し請求権も含まれます。
親権者の権限
親権者は、子の財産につき管理及び代理する権限ないし養子縁組等の身分上の重大な法的効果を伴う身分行為について代理する権限を持つとされています。
子の氏の変更申立の代理は、親権者の権限であり、監護権者には権限がないとされています。
では、子どもの親権者を決めるポイントについてお話します。
安易に親権者と監護権者を分けない
離婚に際し、父母双方が親権者になることを強く希望する場合、妥協案として、親権者と監護者を分けることが提案される場合があります。
しかし、安易に分けることは避けるべきです。
離婚紛争で対立関係にあった父母は、多くの場合、相手に対立感情を持っています。
そのため、冷静に子の利益を考え、協力し合う関係を構築することは極めて難しいのです。
結果として、離婚後の子の監護に支障をきたす恐れがあります。その例を少し書いておきます。
再婚相手との養子縁組
監護者が再婚し、その再婚相手と子どもが養子縁組をする場合、親権者の代諾が必要になります。
しかし、親権者はそれを認めない場合には、困ったことになります。
子どもは、養子縁組ができない限り、監護権者やその新しい配偶者と同じ戸籍に入ることができません。氏が違ってしまうことも考えられます。
いくら生活を一緒にしていたとしても、親と名字が違うと、実生活上はもちろん、子どもの心情面にも悪影響を及ぼしかねません。
もちろん、親権者が養子縁組を認めないことによって、子どもの福祉が害されている状況であれば、それを理由として親権者変更を申し立てることも可能です。
しかし、離婚が成立し、新しい家族と次のステップを踏み出そうというときに、子どもが再度紛争に巻き込まれることになってしまうのです。
医療行為
また、父母で子の医療・治療方針に関する意見が対立することも考えられます。通常、緊急を要する事態において、医療行為に関して親権者と監護者の意見がちがうということは想定されていません。しかし、父母の葛藤が高く、子の福祉に悪い状況があれば、子どもにとって、取り返しのつかない影響を及ぼし子に危険が伴うことにもなりかねません。
親権と監護権を分けてもいい場合
もちろん、父母の協力体制をとることが可能ならば、親権者と監護者を分けることは可能です。
親権と監護権を分けることは、親権者が単独である場合より、双方で関わらなければならない場面が多くなることが当然予想されます。
その際、父母が自分の権利を主張するのではなく、子にとっての幸せは何かという点に視点を置き、冷静に話し合い、決定していく理性が必要になります。
子どもの意思を代理できる?
子どもの意思に沿った代理を果たせるのはどちらの親か考えることも大切です。父母や子が生活する中で、子の利益にどうすればなるのか考える際、重要なのはきちんと子どもの意思を汲み取ることです。
一般的には、子と生活を共にしている親の方が子の意思に沿った代理権の行使をすることが期待できます。そのため、同居親と親権者が一致している方が子どもの利益にかなうと考えられています。
一方、別居親でも、面会交流を通じて子どもの状況や意思をよく把握し、なおかつ、同居親と問題なく意思疎通が取れている別居親であれば、子の意思に沿った代理権の行使は可能だということにもなります。
そのため、親権者と監護者を分けるかどうかは、それぞれの関係性が良好か否かがポイントになってきます。
親権者になる親とは
離婚後も親権者たる親にもってもらいたい心構えは、「親権者には、ならなかった親も、子の親である」ということをしっかりと自覚している必要があると思います。親権者にならなかったとしても、子の親であることには違いないのですから。
親権者になった親は、とかく、親権者にならなかった親を子と切り離しがちですから、それを切り離さないでほしいのです。そして、自分が親権者だからといって、子のことを自分一人で決めてしまいがちですから相談するくらいな気持ちでいてほしいと思います。
むしろ、子にとって大切な事は、親権者でない親にも相談してから決めるという良好な親としての関係を築くことを子のために実行をお願いします。そういった親権者の考えが親権者とならない親に伝われば、親権決定でもめることも少なくなると思います。
親権のない方の親とは
親権者にならない親は、離婚後も子に対しての親としての責任を果たしてほしいと思います。親権者ではないのだから子のことはもう自分に関係ないと考えず、いつまでも子の親である自覚を忘れずに子や親権者になった親が子の養育においても助けが必要になったときは、気持ちよく子のためと考え援助をしてあげていただきたいのです。
また、当然ですが、別居親は子の成長を見届けつつ養育費を最後までキチンと払っていくことは親の責任です。
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